17.『遠まわりする雛』米澤穂信

遠まわりする雛

遠まわりする雛

 <古典部>シリーズ第四作は四季折々の短編集。
 学園ミステリから成長譚へ。折木一人から古典部四人の物語へ。前作『クドリャフカの順番』で見られたシリーズの方向転換が、より明確に示された作品です。短編一編で一人(+一人)に焦点が当てられ、さらに全体を通して一年間の変化が見られるため、前作よりも「成長譚」としての色が覗えます。彼らが「今」何を考えているのか、どんな信念を持っているのか、それらがどう変わろうとしているのか。そんな諸々が日常ミステリをうまく絡めつつ描かれていました。折木はもちろん「手作りチョコレート事件」の里志と摩耶花とか。表題作の千反田とか。ああもう、こいつらみんな大好きだ。
 気になることがないではないです。今回、成長の可能性が折木と里志だけしか描かれませんでした。摩耶花は前作のこともあるのでともかく、千反田はどうなんでしょう。成長する余地がまだあるんでしょうか。行き着くところまで行き着いてあとは待つだけというのは、ちょっと寂しい気がします。
 さらに気になったのは、折木たちが成長し始めたことで、日常の終わりが明確に示されてしまったことです。個人的に初期のだらだら感は好きだったんですが。成長譚故の必然とは理解しつつも、残念でなりません。
 何にせよ、私はこの四人が大好きです。それだけが全てです。彼らが今後どんな成長を遂げるか、卒業まであと二年(作品内)しっかりと見届けたいと思います。
 
 補足(という名のついで)。ミステリとして読むなら、やはり「心あたりのある者は」が秀逸です。たった一度の放送からそこまで推理できるとは、やはり膏薬を貼り付けるのも才能だということでしょうか。ちなみに短編のいくつかには海外古典ミステリに元ネタがあるとかないとか。元々<古典部>シリーズでは海外古典を読者に紹介する意図があったそうですが、今後は方針を変えるかもしれないとか。
 あと全編通して折木の一人称のボケに磨きがかかっていて(?)思わずつっこまずにはいられませんでした。道行氏。