9.『トリックスターズD』久住四季

ミステリを模った現在の魔術師の物語第3作。学園祭初日、暗闇の講義棟に閉じこめられた主人公とヒロインとミス研の人々。彼らは脱出を試みるも、一人、また一人と消えていく。
良作です。前2作『トリックスターズ』『トリックスターズL』および本作『トリックスターズD』が登場人物の書いた実名小説であるという、のっけからメタフィクショナルな設定が登場。また「自分は小説の登場人物ではないか?」と疑ってみたり「機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)」を意識したり、とことんメタな雰囲気が漂っています。挿絵も面白いですね。第六幕の扉と242、3ページには思わず吹き出しました。
ミステリ的な伏線もちらちらと張りつつ、真相もそれなりに驚きました。こういう型のミステリなんでしょう。あ、『トリックスターズ』のネタがあっさりとばらされているので、先に読んでおくことをおすすめします。理由はそれだけではないのですが。
以下の文章でネタバレはしていませんが、読まないほうがきっと楽しく読めると思います。
良作は良作なのですが、何かが足りない感じがしました。魔術の設定やミステリに対する態度は共感すべきものなのに、どうしても心底から「面白い」と言えません。これは3作全てに言えることなのですが。その原因はたぶんキャラクターだと思います。
今回出てくるミス研の人々は、探偵を気取ってみたり、無口だったり、ゴシックだったり、語尾に「ニョロ」をつけたりと、色んな記号を持っています。けれどその思考・行動はごくごく普通で、薄味な気がしました。主人公の地の文も、思考が思い出した頃にしか描かれておらず、本来なら読者を恐怖に引き込むはずの場面も客観的にしか読めませんでした。
これがただのミステリなら問題はないでしょう。ですがそこは電撃文庫ライトノベルど真ん中なわけです。そもそも世界からして魔術なんて現実離れした事象が存在するのですから。もう少しぶっとんだキャラクターを出してもいいんじゃないでしょうか。
ただ今回に限って言えば、魔術「召喚」の説明の中で「存在は概念の集合である」と定義して人間の例を挙げています。もし作者が「概念=記号」と解釈し、さらに事件の真相も絡めた上で、わざとキャラクターに反映させたのだとしたら。私には賞賛に足る言葉が思い浮かびません。考えすぎでしょうか。