12.『赤朽葉家の伝説』桜庭一樹

赤朽葉家の伝説

赤朽葉家の伝説

 傑作です。これを面白いと言わず、何が面白いのか。
 赤朽葉家の女の生き様と、彼女たちが生きた時代を描いた作品。神話の崩壊と慣習の変遷。圧倒的な時代の存在感。三代に渡る壮大な物語のため必然として分量が多いのですが、適度なテンポで進むため読むのに退屈しません。先が気になる気になる。ミステリはあくまで味付け程度ですが、あっさりしていていい感じでした。
 昔々、神話や伝承のようなものは地方に限らず、どこにでもあったものだと思います。それらが都市や経済、科学技術の発展によって次第に山の奥へ奥へと追いやられ、ひっそりと消えていく。それは神話のように信じられてきた古風な思考や慣習も同様に。古い考え方が変わっていくのは大いに歓迎です。けれど神話そのものが忘れられていくのは、ちょっぴり悲しいです。
 ところで本作品は某N賞にもノミネートされているそうで。せっかくだから受賞してもらいたいところですが、作品の出来以外の諸々が大きなウェイトを占める某N賞ですし……大衆文学とはほんの数人の選考委員の嗜好に合った作品のことらしいですよ。